甘い恋じゃなかった。
私と桐原さんは、近くにあった駄菓子屋の軒先に逃げ込んだ。
もう今日の営業は終了したらしい、シャッターが降りている。
すぐにここまで避難したのだが、雨の勢いが凄く結構濡れてしまった。
ゴソゴソとカバンを漁る。よかったあった、ハンカチ。
「使ってください」
ピンクのタオル生地のそれを差し出すと、桐原さんが怪訝そうな顔をした。
「いやお前が使えよ」
「私は大丈夫ですから、風邪ひいちゃいますよ?」
「その言葉そっくりそのまま返す」
「私体だけは丈夫なんで、平気です。ミルフィーユのシェフに風邪ひかせるわけにはいきませんから!」
ん、と押し付けるようにして差し出すと、桐原さんは怪訝そうな顔のままそれを受け取った。
そして、
「っわ、」
私の方に腕を伸ばしてきたかと思うと、ゴシゴシと頭をそのハンカチで拭かれる。
「桐原さん先に…」
「うるさい」
そのままの流れで顔、肩までハンカチで擦られる。
一通り拭いたあと、
「ん」
とハンカチを投げてよこした。
「…あ、ありがとうございます」
「別に。それより止むまでもう少しかかりそうだな」
「そうですね…」
桐原さんのマネして空を見上げてみる。
空の奥から次から次へと落ちてくる大粒の雫。
夏。夕立。雨宿り。駄菓子屋の軒先…。
よせばいいのに、余計なことを考えついてしまった。
あ、これ、まるで…