甘い恋じゃなかった。
ポン、と頭に浮かんだのは、さっき見たばかりの映画のワンシーン。
雨に濡れた主人公とヒロインがキスするところは、それはもう色気が凄くて…って何考えてるの私!!
「俺ちょっと師匠に電話…って、おい?」
桐原さんが俯いている私に気づいて、怪訝そうに声をかけた。
「どうした?」
「べ、別に?何もないですけど…」
「顔真っ赤だけど。熱でも出したか?」
「っ出してません!」
額目掛けて伸びてきた桐原さんの腕から慌てて逃げる。
ガシャン、と背中がシャッターにぶつかった。
眉をひそめる桐原さん。
「はぁ?お前、何…」
そのとき、ふ、と何か思い当たったらしい。
空を見上げて、あぁ、と呟くと、私を見てニヤリと笑った。
…嫌な予感がする。
「キスでもしてみるか?」
「っはぁ!?」
キスでも△⌘♯▽!?
思いがけない一言に動揺しまくっている私を見て、桐原さんが声も出さずに爆笑している。
「きっ聞いてたんですか!?」
私の映画の話…!
「聞いてたんじゃない、聞こえたんだよ」
桐原さんが口元をだらしなく緩めたままそう言った。