甘い恋じゃなかった。
そうこうしているうちに雨が止み、再び蝉の鳴き声がけたたましく響き渡る。
「行くか」
桐原さんが地面に置いてあったレモンの袋を持ち直し振り向いた。
「おいお前…口の周りにマカロンのカスついてんぞ」
「えっ、どこですか!?」
「走るぞ」
「は?ちょっと!!」
ゴシゴシ口の周りを擦る私を置いて走り始める桐原さん。
「待ってくださいよー!」
慌てて私も追いかける。
まだふんわりと、ラズベリーの香りが口の中に残っていた。