甘い恋じゃなかった。
ゴボゴボッ…
不穏な音に慌てて目線を落とすと、熱くなりすぎた水と米が鍋の中で暴れていた。
火、かけすぎた。
慌てて火を緩め、溶き卵を流し込む。
蓋をしめて、ハァと息を吐いた。
ダメだ。
私がいくら考えたって答えなんて出るわけないのに、まるで、もがいてももがいても抜け出せない底なし沼のように、考えずにはいられない。
桐原さんだってきっと、私と同じ答えが知りたくてこんな所まで来たんだろう。残念ながら、私は彼にとって有益な情報は何も与えられそうにないけど。
数分もすると、あっという間に卵粥は出来上がってしまった。
桐原さんはまだまだ起きそうにない。
「………」
眠る桐原さんと、キッチンに立ち尽くす私。
チ、チ、チ、と。
時計の秒針だけが、かろうじて時が前に進んでいることを教えている。
…このままだと、また答え無しの底なし沼に陥ってしまいそうだ。
ふ、と視界の端にビニール袋に入れられたショコラフランボワーズが映った。
昨日桐原さんに肩を引っ張られた際、思わず落としてしまったものだ。私は桐原さんに怯えながらも泣く泣くそれを拾い集めた。
今思い出しても泣ける。