甘い恋じゃなかった。
ブス、と膨れる私に、桐原さんがまるで何事もなかったかのように「つーか今日の夕飯何?」と聞いた。
「知りません」
素っ気なく答えた私に呆れたようなため息をつく彼。
「せっかく売れ残ったケーキ持ってき…」
「冷蔵庫に作り置きしてあるカレーがありますよ?」
即座に答えると桐原さんが「単純」と笑った。
そう。私は単純だ。彼のケーキ一つでいつだって。
「一緒に夕飯の後に食べましょ?」
「そう言ってどうせ全部ひとりで食うくせに」
「食いませんよ!」
桐原さんが笑う。台所からカレーの匂いが漂ってくる。
さぁ、はやく二人でカレーを食べて、お風呂に入って、ケーキを食べよう。
そして、とりあえず例の“ブツ”は引き出しの奥底にしまっておこう。