甘い恋じゃなかった。
「…なるほど」
全てを聞き終えた牛奥が、伏し目がちに頷いた。
「まぁ全然納得はできてねーけど。
償いとしての同居、ね…」
「…とかいって、結局は金なし宿なしだったから、都合よく使われてるだけなんだけどね!」
「…今は仕事してるじゃん」
「ま、まぁ…そうなんだけど」
前に聞いたときは『見習いの分際で給料なんて貰えるかバカ』なんて偉く謙虚ぶったことを言っていたけど、そういえば今はどうなんだろう?最近はそんな話をしないので全く分からない。
「…小鳥遊はさ」
少しの沈黙の後、机に視線を落としたまま、牛奥が口を開いた。
「…好きなの?桐原さんのこと」
「ちょっ…それ前も言ってたけど、ないから!私と桐原さんはそういうんじゃないんだって」
「じゃぁ何で追い出さないんだよ。
何で付き合ってもいない男と一緒に住んでんだよ」
「だから、それは…」
「姉ちゃんがしたことと小鳥遊は、何の関係もないだろ」
「そ、れは…」
牛奥の言ってることは多分…正論。
でも何でだろう。何も言い返せないのは。
「…帰るわ」
黙った私のままに痺れをきらしたらしい。牛奥が立ち上がった。