甘い恋じゃなかった。
「きっ、桐原さん!目が覚めたんですね、具合はどう…」
「何やってんのって聞いてんだよ」
ギロリと私を睨みつける桐原さん。
やっぱりさっきの天使の寝顔は幻だ。うん、きっとそうに違いない。
「な、何って…ケーキ作ってました」
「……ケーキ?」
ジロ、と桐原さんの視線が私の手元に注がれる。
そしてギュッと眉をひそめた。
まるで見たくないものを見てしまったかのような、そんな表情。
「桐原さん…?」
どうしよう。能天気に何してんだよって思っているんだろうか。
きたる怒声に備えて身をギュッと縮こませていると、何を思ったのか、桐原さんが突然スタスタと歩いてカウンターの内側に入ってきた。
ひぃっ!?なっ、何!?
怯える私をひと睨みして、桐原さんがポンと放ってあったフォークを取り上げる。そしてそれをおもむろに私の方に伸ばしてきて…
まさか…刺される!?
「ギャッ…!!」
グサ。
刺されたのはフライングで悲鳴をあげてしまった私ではなく。
私の作ったいちごケーキの真ん中に、それが深々と突き立てられていた。