甘い恋じゃなかった。
思いがけない罵詈雑言の嵐に立ち尽くしていると、桐原さんが「どけ!」と乱暴に私を退かした。
「おい、材料はまだあるのか」
「え…ざ、材料…?」
「教えてやるよ。ほんとのケーキってもんを!」
そこからはまるで魔法を見ているかのようだった。
恐ろしく正確で、そして恐ろしく速い。
サッと彼が手を動かすだけで、綺麗に生クリームがスポンジをコーティングしていく。
鮮やかで、でもすごく繊細で、大胆で。
魅せられているうちに、あっという間にいちごのショートケーキが出来上がっていた。
「食ってみろ」
桐原さんがぞんざいにそう言って、私にフォークを渡す。
ゴクリ。
思わず喉が鳴った。
おいしそう…!!
食べる前から分かる。これ、絶対おいしい。
なんだか輝きが違うのは、絶対私の作った方のケーキが、いちごを奪われているからだけではないと思う。