甘い恋じゃなかった。
…桐原さんが…
あの暴君桐原さんが…
私に感謝している!?ですと!?
あまりのことに呆然とする私に、桐原さんが不機嫌そうに頭をガシガシとかき、立ち上がった。
「お前黙るなよ。じゃぁ俺そろそろ寝…「私も感謝してます!!」
ガシィッ!と立ち上がりかけた桐原さんの腕を思い切り掴む。
「おわっ!」と桐原さんが尻餅をつくように座り込んだ。
「あぶねーな!」
「私も感謝してます!桐原さんに出会えたこと、感謝してます。桐原さんに出会えてなかったら、桐原さんの作るケーキにもありつけませんでしたから!」
「ありつくって…お前人を飼育員みたいに言うな」
「あの、私ずっとファンですから!桐原さんの作るケーキのファンですから!!」
「…あ、そ」
桐原さんが薄い茶色の瞳で私を見つめる。
桐原さんの瞳の中に私がいる。
至近距離でそれを意識した瞬間、心臓が揺れた。
「…寝るわ」
ふ、と目を逸らしたのは桐原さんの方だった。
「あ、おやすみなさい」
「おぉ。お前も早く寝ろよ」
桐原さんがドアの向こうに消える。
私も歯を磨いて、いい加減眠ろう。