甘い恋じゃなかった。
「…え?桐原さんがいなくなった?」
翌日、昼食の時間。
莉央に桐原さんのことを話した。
きつねうどんを食べていた莉央が、食べる手を止め聞く。
「喧嘩でもしたの?」
「いや、してない…」
「じゃぁ何で突然?」
「…分からない」
でも、前兆はあった、のかもしれない。
今思えば“感謝してる”なんて、普段の桐原さんが言うはずないんだ。
「…まぁまぁ」
莉央が宥めるように言う。
同時に、食べる手が再開する。
「そんな落ち込まなくても。
今日の夜とか、ひょっこり帰ってくるかもよ?」
「…そうかなぁ」
「…落ち込んでることは否定しないんだ」
「え?」
クスリ、と笑った莉央は、何も言わずに麺をすする。
「うん、おいし〜い」
…そっか。私、落ち込んでるの?
自分のことなのに自分で自分の感情が、よく分からない。
悲しい、とは違う。
ただ、
どこかにポッカリ穴が開いたような。