甘い恋じゃなかった。
「だろ」
桐原さんが偉そうに言う。
「これが本当のケーキ…」
「すごい!本当においしいですよこれ!!」
パクパクと無我夢中でケーキを口に運んでいると、桐原さんが「…おまえ」と眉をひそめた。
「バクバク食いすぎだろ。ケーキっつーのはもっとこう上品にだな…」
「だって死ぬほどおいしいんですもん!
私、こんなに幸せになれるケーキ、はじめて出会いました!」
「…幸せ?」
「はい、私いま、すっごく幸せです」
「………」
満面の笑みを桐原さんに向けると、彼は一瞬虚をつかれたかのように口をつぐんだ。
「桐原さん?」
ハ、と彼が我に返ったように私から顔を逸らす。
「…バカかよ。口の周りクリームだらけだし」
「えっ嘘!?」
慌てて手でぬぐおうとしたその瞬間、桐原さんが私の抱えていたケーキの皿を奪い取って、そのまま勢いよくゴミ箱に捨てた。
「!?
ちょっと何するんですか!?」
「うっせーな!俺はこんなことする為に来たわけじゃねーんだよ」
桐原さんが鋭い目で私を見下ろす。
…昨夜、見た瞳だ。
「言ったよな。
栞里の居場所を教えろ」