甘い恋じゃなかった。




「………」


瞬間、時が止まったような感覚がした。桐原さんは何も言わない。私の背に腕を回すことも、私を押し退けることもしない。


ゆっくりと体を離して、勇気を出して桐原さんを見る。


彼は、まるで蝋人形のように大きく目を見開いたまま固まっていた。


…想像以上の驚き様である。



伝わったんだ。桐原さんに。私の気持ちが。



そう認識した途端、顔にカッと熱が集中した。体中の血液がドクドクと波打ち始める。


私…なんてことを!!




「…あ、あの。というわけで、以上です!」



店長の顔は見たくない。というか恥ずかしすぎて見れなかった。というわけで俯いたまま店長の手から引っ手繰るようにケーキの箱を奪い取る。



「…あ、あのっ」



立ち去り際に振り向くと、桐原さんは相変わらず固まっていた。



「…嘘じゃ、ないんで」




本気、なんで。




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