甘い恋じゃなかった。
そそくさと身を引いて、私も余った卵粥を彼の向かいで食べ始める。
暫くお互い黙々と食べるだけの時間が続き、ふと時計を見ると午後1時半をまわっていた。
昨夜からもう半日以上、桐原さんと一緒にいることになる。
桐原さんの要求は“姉の居場所を教えること”。だけど私はそれに応えられない。
…それにもし、知っていたとしても彼に教えるのは気が引ける。
そりゃ、この件に関しては全面的に姉が悪い。物凄く悪い。だけど、昨夜の血走った目をした彼に居場所を教えたら…どうなってしまうのか。想像しただけで鳥肌がたった。
チラ、とお粥を食べるフリをしながら彼の様子を窺う。
だけどもし、知らないと突っぱねたとして、彼があーハイそうですかと大人しく帰るとも思えない。
ボコボコにぶちのめされるか、あるいは…
最悪な想像に背中を冷たい汗がつたった時、ふと彼が顔を上げた。盗み見していた私とバッチリ視線が交差する。
ニヤリ
不気味な笑みを零して彼は言った。
「お前今、いつまで俺がここにいるのか考えてただろ。安心しろ。お前が栞里の居場所さえ教えればすぐに出て行く」
…教えれば、ね。