甘い恋じゃなかった。
♡観覧車とキスと、再会と
「はぁ……」
土曜日の午後、五時。
三時頃にピークを迎えていた客足も、少し落ち着き始め。
私はカウンターの席でダージリンを嗜みながら、厨房で洗い物をする桐原さんをじ、と見つめていた。
スラ、と高い身長に整った顔立ち。
今までは桐原さんを、改めてそんな風に思ったことはなかったけど。
そっか。こんなかっこいい人が、私の彼氏、なんだなぁ…。
「なぁに〜?キララくん見てうっとりため息なんてついちゃって」
ぬ、と視界を遮るようにして現れた店長が、ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべる。
桐原さんとああいう事になって一週間。
ミルフィーユに来たのは久しぶりだった。
「べ、別にうっとりなんて…」
してましたぁ!!
誤魔化すようにダージリンを口に運ぶ私に、相変わらずニヤニヤとした視線を送ってくる店長。
「もぉ〜、照れなくていいのにぃ〜」
なぜ口調が少しオカマっぽいんだろう。
「でも、そっかぁ。その様子だとやっとくっついたんだね、キララくんと明里ちゃん!」
「やっとって…」
「もう大変だったんだから!明里ちゃんが告ってお店来なくなってから、ずーっとキララくんイライラしっぱなしで!!
お客さんが入ってくる度にソワソワして、明里ちゃんじゃないって分かるとまたイライラして、その繰り返し!!」
どうやら店長にも多大なる迷惑をかけていたようだ。
「だから僕ね、言ってやったのよ!
“自分の気持ちも伝えられねぇような男にロクなケーキは作れねぇ。明日は有給でいいからビシッとケジメつけてこいやァ!”ってね」
キメ顔でその場面を再現してみせる店長。
うん、発言に若干の脚色は入っているかもしれないが、店長が背中を押してくれたことは事実なんだろう。
私は深々と頭を下げた。
「ありがとうございました、店長」