甘い恋じゃなかった。
私が一人暮らしを始めて二年になる1LDKのアパートは、最寄駅から徒歩15分ほどの所にある。
本当は家賃的に私が住めるレベルの所ではないんだけど、お父さんの知り合いが持っているアパートということで、格安で入居させてもらっているのだ。
「フンフンフ〜ン♪」
そうだ!こないだ買ったばかりのちょっと上等な紅茶も一緒に淹れよう。あれはきっと、ボヌールのショコラフランボワーズにピッタリだ。
そんなことを考えながら鼻歌混じりにオートロックを解除し、自動扉をくぐった時、
「おい」
グイッ!と後ろから誰かに肩を掴まれ、乱暴に引っ張られる!
「きゃっ…!?」
不意の衝撃に私の手からショコラフランボワーズの箱が滑り落ち、勢いよく床に落下した。
「あぁ…っ!?」
結構な勢いで落下したものだから、箱から色鮮やかな赤のショコラフランボワーズが飛び出し、見るも無残な姿になっている。
なんということ!!
ボヌールのショコラフランボワーズが…!奇跡の売れ残りが…!次いつありつけるか分からないのに…!予約不可なのにぃ…!!
「ちょっと何すんの!?!?」
こうなった全ての原因、私の肩を突然掴み引っ張った男をギュンと睨みつけると
「あ゛ぁ!?」
そんな私の何倍もの眼光で鋭く睨み返された。
ひぃっ!!何この人怖すぎない!?