甘い恋じゃなかった。
「で、無職になった俺は当然無報酬だ。暫くは貯金で繋いでいたがそれも最近底を尽き、家賃が払えずマンションを追い出された。つまり俺は今、職なし金なしという状態だ」
つまりただの行き倒れである桐原さんが、偉そうな口調で言う。
「つーわけでここに住ませろ」
「…いや、全然つーわけでになってないような…」
「うるせえな!」
再びローテーブルを叩く桐原さん!怖い!
「栞里の居場所が分かり次第出て行く。あくまでそれまでの仮住まいだ」
「で、でも…」
私と桐原さんが一緒に住む。
…いや、ないでしょ。ありえない。絶対、ない!
桐原さんにとって私は逃げた花嫁の妹。自分をあんな目に遭わせた奴の家族。恨みの対象のはずだ。
そんな人と同居生活なんて――
「ありえな「じゃぁ選べ」
ボキボキと拳を鳴らす桐原さん。
「栞里の居場所を教えるか、俺を暫くここに置くか、今すぐここでボコボコにされるか。どれがいい?」
あぁ―――
思わず天井を仰ぎ見る。
平凡で平和な日常が、ガラガラと崩れていく音がした。