甘い恋じゃなかった。
♡悩み多きクリスマスケーキ
目を離すなって言ったって…どうすれば。
私はモヤモヤしながら帰路につき、その足でミルフィーユへと向かった。
昨夜、あのまま別れた桐原さんのことがどうしても気になって仕方なかった。
お店のドアにかけられたクローズの看板。スマホを開いて時刻を確認すると、閉店時間を十分ほど過ぎたところだった。
中からはまだ灯りが漏れている。
まぁ…いっか!
私はそ、とドアを開けた。
カランコロン、といつもと同じ鈴の音がしたが、いつものような店長の威勢のいい声は聞こえない。
静か、だ。店長は留守なのだろうか。
誰もいない店内を見渡し…いや、いた。
あまりの気配のなさに気付かなかったが、桐原さんが恐ろしく難しい顔をしてカウンターの椅子に座り、頭をかかえていた。
も、物凄く思い悩んでいるっ…!!
そりゃ、そうだよね。かつての婚約者が突如目の前に現れたのだから無理もない…。
昨日は気にしていないような素振りをしていたくせに。
モヤモヤが更に重みを増して私の中に沈殿していくのを感じる。
そ、と顔を覗き込んでみた。
気付かない。どんだけ思い詰めているんだ。
「桐原さん」
呼んでみる。…嘘でしょ、どうして気付かないの。
「あの…」
ポン、と肩に触れた瞬間。
「うわぁっ…!!」
桐原さんが文字通り、飛び上がった。