甘い恋じゃなかった。
「無理ですからそれ。絶対無理ですから!」
「え?何で?」
キョトン、とした顔で店長が聞いてくる。
何でって、そりゃ…
助けを求めるようにお姉ちゃんを見ると、ニコ、と満面の笑顔が返ってきた。
は?ニコ?
「…クリスマスまで、ですよね。やってもいいですよ私」
「えっ本当!?」
再びガシッとお姉ちゃんの手を握る店長。
その手を引き剥がすことも忘れて、私は思わず立ち上がった。
「いやいやいや、お姉ちゃん何言ってんの!?本気!?」
「本気だったら何か問題でも?」
「問題あるでしょそりゃあ!」
だって、ここで働くってことは桐原さんと一緒に働くってことで…!
「…師匠」
聞く者全てを凍らせてしまうような氷点下の声がした。
はっと見ると、厨房から出てきた桐原さんが恐ろしい形相で私を睨んでいる。
いやいや、睨むのは私じゃないでしょ!?コッチでしょ!?
必死に店長を指差す私に気付いたのか気付いてないのか、桐原さんが店長の前に立ち言った。
「俺は反対です」
「え?何で?キララくん、師匠の好きにすればいいって言ってたじゃん」
「言ってません」
「いや言ってたよ?」
「言いましたけど。やっぱりアルバイトなんて金の無駄遣いやめましょう。俺一人でも十分まわせますから」
「………」
桐原さんの言葉に店長は暫し考え込むように顎に手を当てたが、
「嫌だ!」
そうきっぱりと言い放った。まるでオモチャを買ってと駄々をこねる子供のように。