甘い恋じゃなかった。




「あー、分からない。我が姉ながら、考えてることがさっぱり分からない…」


「ほんと話に聞く限り自由な人だよね、明里のお姉ちゃんて」



今日のお昼は、珍しく外にランチに出かけた。莉央と牛奥も一緒だ。


カルボナーラを口いっぱいに頬張った牛奥が言う。


「そのことについて何か話したのかよ?桐原さんとは」


「いや、何も。話す暇なかったし」


「電話でも何でもすりゃいいじゃん」


「まぁそうなんだけど…家にお姉ちゃんいるし。元々電話とかメールとかしないんだよね、私たち」


デミグラスソースのハンバーグをパク、と一口頬張る。


牛奥は不満気な顔だ。



「付き合ってんなら言いたいことは言やいいじゃん。不安だって」


「別に、不安っていうか」


「嘘つくなよ。かつての婚約者が現れて一緒に働くなんて、不安なんだろ?またあの二人がどうにかならないなんて保証はないんだから」


「ちょっと牛奥」



一人メインの海老とチーズのグラタンを食べ終え、デザートのパフェに移行していた莉央がたしなめた。そのパフェももうすぐ食べ終えそうである。


「明里を不安にさせるようなこと言うのやめなよ」

「いや、早乙女の方がいつも散々言ってんだろ」

「あんたのはこう、下心が垣間見えんのよ」


「はぁ?そんなのねーよ!俺はな、諦めると決めたらきっぱり諦めのつく潔い男なんだよ」


「どこが潔い…何年もグダグダしてたくせに」


「うるせー!おま、その話を蒸し返すなよ!?」



なぜか目の前で喧嘩なのかコントなのか、を繰り広げ始めた二人を見ているとモヤモヤとしていた心が少しだけ落ち着いてくる。




そうだね。

私、もっと言いたいこと言っていいのかもしれない。だって桐原さんの、か、彼女は今、私だし!!



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