甘い恋じゃなかった。
「栞里!」
桐原さんが厨房から出てきて、お姉ちゃんを呼んだ。ただそれだけのことなのに、ズクンと胸が疼く。
何か、仕事の話なのだろう。
二人とも真剣な表情で、お姉ちゃんは桐原さんの言葉に頷き、時々メモを取っていた。
別に笑顔で楽しそうに話しているわけでも、キャッキャウフフしているわけでもない。
でも、二人がこうして並んでいるのを見るのは、はじめてで。
…どうしようもなく胸騒ぎがする。
お姉ちゃんとの話の途中で私に気付いた桐原さんが、お姉ちゃんに何やら指示を出してから、私のところにやってきた。
「なんだお前、来てたのかよ」
「私が来ちゃ悪いんですかね。言っとくけどミルフィーユ歴は桐原さんより私の方が俄然長いんですからね」
「つか、なんちゅー顔してんだよ」
「別にぃ。私は“お前”なのに名前呼びかよって思っただけですよ」
「はぁ?何…」
「キララ王子〜!」
桐原さんが眉をひそめたその時、奥のテーブル席にいたキラキラ女子軍団が桐原さんを呼んだ。
「…お呼びですよ、キララ王子」
私が言うと、彼はチッと舌打ちをして
「…ちょっと待ってろ」
そう言い残して、キラキラ女子軍団の元に歩いていった。