甘い恋じゃなかった。
ミルフィーユの店内はそんなに広いわけではない。
だから、お客同士の会話は結構丸聞こえだ。特に高い声で賑やかに話すキラキラ女子軍団の話し声は。
「ね〜キララ王子?あの赤いエプロンつけた女の人誰なの〜?」
「あー…新しく雇った短期バイトの人だよ」
「短期バイトの人ぉ?そんなこと言って、実はキララ王子の彼女だったりして〜!」
「はぁ?違うって」
「本当?じゃぁキララ王子の彼女ってどんな人〜?」
「彼女?」
一瞬間を置いた桐原さん。だけどすぐに
「いないよ彼女なんて」
そうきっぱりと言い切った。
…は?
「え〜、本当に?」
「じゃぁあのバイトの人と付き合っちゃえば?あの人美人だしお似合いじゃん!」
好き勝手なことを言って盛り上がっている女子軍団。
それに対し桐原さんはまた何か答えたようだったけど、私の耳にその声はもう届いていなかった。
彼女…いない…イナイ…ふーーーん。
「…明里ちゃん?そんな恐い顔してどうしたの?」
店長が恐る恐る、といった感じで話しかけてくる。
「店長…モンブランとガトーショコラとミルフィーユとダージリン、大急ぎで持ってきて!」
「えっ何やけ食い!?」
「いいから早く!」
「はっはい!!」
店長が大慌てで厨房に駆け込んでいく。
はぁ。苺のショートケーキも追加すればよかった。