甘い恋じゃなかった。
「お前またケーキバカ食いしただろ。太るぞ」
閉店時間が迫った店内。
私以外のお客は誰もいなくなり、顔をしかめた桐原さんが私の席にやって来た。
「ケーキは別腹だからいいんです」
「だからそれ使い方ちげーよ」
「おいしいケーキを食べるのが唯一の生きがいなんですから放っといて下さいよ」
「お前…何拗ねてんの?」
形のいい眉をひそめる桐原さん。眉の手入れをしているところなんて見たことないのに、何でこんなに綺麗な眉毛なんだコラ。
「…さっき、何で嘘ついたんですか。キラキラ女子軍団に」
「は?キラキラ?」
「彼女いないってはっきりきっぱり言い放ってたじゃないですか!」
「あー、あれか」
何でもないことのように頷く桐原さんに募るイライラ。
「別に本当のこと言う義理なんてないだろ。色々聞かれると面倒くせーし」
「でも…!」
あのキラキラ女子軍団の中で、本気で桐原さんのこと狙ってる子、いるかもしれないじゃないですか。
私の不満気な瞳に気付いた桐原さんは不思議そうな顔だ。
「このくらいのことで何でそんな不機嫌なんだよ?」
あー、この人、イケメンだっていう自覚あるならもっとなんていうかこう、リスク管理までしっかりとして欲しいものだ。