甘い恋じゃなかった。



「別にぃ」


そっぽを向いて久しぶりに飲みたくなったリンゴジュースを飲む私に面倒くさそうな視線を向ける桐原さん。


「だから拗ねんなよ」

「拗ねてないです」

「拗ねてんだろ!」

「拗ねてな…」



「きぃくん!」


永遠に続きそうな言い合いを止めたのはお姉ちゃんの声だった。


ノートを片手にパタパタと桐原さんの元に走り寄ってくる。


「お店のケーキについて詳しく教えて欲しいなと思って。お客さんから色々聞かれることが多くってさ、答えられるようになりたいんだ」


「…そういうのは師匠に聞けよ。この店のケーキ作ってんのほとんど師匠なんだから」


「それが…」


お姉ちゃんが困ったように眉を下げる。


「店長に頼んだら、そういうのはキララくんに一任してあるからって」

「はぁ?」


深いため息をつく桐原さん。


「ったくあの人は…」

「迷惑かな?」


じ、とお姉ちゃんが桐原さんを見る。

…チラ、と桐原さんはなぜか私を見た。



「…なんですか」

「…別に」


もう。どいつもこいつも。


「お姉ちゃん、私先に帰るね」

「あーうん、気を付けてね」


席を立ち背もたれにかけてあったコートを取り上げると、なぜか桐原さんが「おい」と焦った声を出した。


「待ってろよ。送る」

「いいですよ。もう閉店時間だし、仕事の邪魔でしょ」

「まだ拗ねてんのかよ…」

「だから拗ねてないですから!!」



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