甘い恋じゃなかった。





あーーー。イライラする。なんだか無性にイライラする。


帰宅した私は、意味もなく部屋中にコロコロをかけまくっていた。


人を不貞腐れた子供みたいに。面倒くさいな、なんて感情が顔に出まくりで。

そのくせお姉ちゃんとのことは、関係ないとか言いつつ私の様子を窺ったりなんかして。


面倒くさい。なんか物凄く面倒くさい!!



「ただいま~」


その時、玄関のドアが開く音と共に間延びしたお姉ちゃんの声が耳に届いた。


はっとして時計を見ると、帰宅してからかれこれ一時間半ほど経過していた。


どんだけコロコロするのに集中していたんだろう、私…。



「明里、ただいま」


部屋に入ってきたお姉ちゃんが私を見てニコ、と笑う。


「お、おかえり」

「掃除?」

「あーうん、まぁね」


掃除というかストレス解消というか。


「明里は昔から綺麗好きだもんね」


そんなことを言いながら、お姉ちゃんは着ていたベージュのチェスターコートをハンガーにかけた。


「…勉強、してたの?桐原さんと。ケーキの」


なぜか言葉が少し片言のようになってしまう。


「うん。色々教えてくれたよ。ケーキのこと語りだすと止まらなくってさ。本当、そういうとこ昔から変わらないよね」


「…そうなんだ」



いや、昔のこととか知らないし。


桐原さんとお姉ちゃんの私の知らない歴史を見せつけられたようで、なんだか胸がモヤモヤする。



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