甘い恋じゃなかった。



「まさか、きぃくんがホテル辞めてるとは思わなかったけど…明里、何か理由とか聞いてる?」


「…さぁ」



前にお姉ちゃんのせいで仕事を辞めたっていうのは聞いていたけど、それは何となく言わないでおいた。それがどういうことなのか、私もよく知らないし。



キッチンに行き、お茶を淹れる準備をする。



「でも、きぃくんの作るケーキ、なんか変わったんだよねぇ。前はもっと見るからに斬新で、インパクトのあるケーキばっかり作ってたよ」


「…ふーん」



だから昔の桐原さんとか…知らないから。



無意識に力がこもっていたらしい、マグカップを出した時に締めた食器棚が、バチンと大きな音をたてた。

お姉ちゃんは構わず、楽しそうに桐原さんの話を続ける。



「しかも昔のきぃくんは、もっとギラギラしてたなぁ。若かったからかなぁ。今は…」


「あのさ」



お姉ちゃんの声を遮って、振り向いた。


コートにファブリーズをしていたお姉ちゃんが、ん?と首をかしげる。



「……カモミールティーとジャスミンティー、どっちがいい?」


「んー、じゃぁ、ジャスミンティで」






“今も桐原さんのこと、好きなの?”




本当に聞きたかったことが、聞けなかったのは。




“好きだよ”





そんな返事が返ってくるのが怖かったから。



もうお姉ちゃんと桐原さんは終わってるし、そんなわけない。頭ではそう思っていても




…怖いんだ。どうしようもなく。





< 336 / 381 >

この作品をシェア

pagetop