甘い恋じゃなかった。
私と桐原さんの同居生活は、まぁ分かっていたことだったけど、お世辞にも“快適”とは言い難いものだった。
まず、
①私の料理に小うるさすぎる。
元々外食よりも自炊派だったし、一人分も二人分もそこまで手間は変わらないので料理を作ることに関しては別に良い。だけど。
「この人参」
ある日、夕食の野菜炒めを食べていた桐原さんが険しい顔で言った。
「切り方粗すぎだろ」
「そ、そうですか?いつもこのくらいですけど」
「あと炒めすぎ。野菜が死んでる」
「………」
お前は口うるさい姑か!?
②人をいちいちバカにしすぎる。
私はテレビドラマを見るのが好きだ。
その日も毎週楽しみにしているドラマを視聴していると
「…何だこれ」
お風呂から出た桐原さんがチラリとテレビを一暼して言った。
「これですか?今ハマってるドラマです!
OLがひょんなことからイケメン四兄弟と同居するっていうストーリーなんですけど、すっごく面白いんですよ」
「…ふーん」
ハ、と鼻で笑う桐原さん。
「バカが見るドラマだな」
「………」
うるさいわ!!
③威圧感を出し過ぎる。
彼にはすぐに人を威圧するというとても悪い癖がある。
昨日の朝もバタバタと準備していると
「おい」
ノソノソと起き出してきた桐原さんが眼光を鋭く光らせながら言った。いつも不機嫌そうな彼だが、寝起きはそれに輪をかけて不機嫌だ。
「今日の夕飯はビーフストロガノフにしろ」
「は?やですよ作ったことないですもん」
「…あ゛!?」
彼から放たれる黒いオーラ!!!
「…分かりました」
「よし」
弱過ぎる私!!!
以上の理由から、彼との同居生活はとても最悪なものだった。
しかも、別々の部屋とはいえ、他人、それも異性が同じ一つ屋根の下で寝ているだなんてなんだか落ち着かなくて夜も眠れず。
精神的にも肉体的にも、限界を迎えようとしていた。