甘い恋じゃなかった。



「明里」


右手にビールジョッキ、左手に砂肝の串を持った莉央が真っ直ぐに私を見つめる。



「そんなことでこじれてる場合?まだ付き合いたてなんだし、しっかり話し合いなって」


「…うん」


「桐原さんも冷静そうに見えて実は混乱してるのかもよ。なんたって、自分を捨てた行方不明の婚約者が当然目の前に現れたんだから」


「そうだね…」



そうだよね。

私、自分の気持ちばっかりで、桐原さんのことちゃんと考えられてなかったのかもしれない。



「はやく仲直りしなよ?」



優しく諭してくれる莉央に、私は感動していた。やっぱり持つべきものは同期だね!



ありがとう、と心からの感謝の言葉を述べた私に、莉央は、いいのよ、と軽くかぶりを振った。次の瞬間、彼女の瞳に真剣な光が宿る。


「早く仲直りして…そして…桐原さんに合コンセッティングしてもらってね?」


「…は?」



真の目的はそっちか!!



「おまえ…西山営業部長はどうしたんだよ」



ポトリと手から枝豆を落とした牛奥が問う。



「それはそれ!これはこれ!」


「はぁ!?」


「だって桐原さんくらい顔面偏差値高い人ってなかなかいないでしょ?大手パティスリーのイケメン若手シェフとか知り合いにいないのかな?」



あぁ、一瞬でも感動して損した…。




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