甘い恋じゃなかった。
「妙な喋り方しやがって、やっぱ怒ってんだろ」
「だから怒ってないですから」
「思うことがあるなら言えよ」
「だから…何で思ってること全部桐原さんに言わないといけないんですか!」
思い切り桐原さんの手を振り払うと、驚いたようにそのクッキリとした瞳が見開かれた。しまった。だけどもう止まらない。
「私にだって言いたくない気持ちだってあります。
桐原さんがお姉ちゃん送るって言ったのが嫌だったとか、お姉ちゃんが少しでも桐原さんに触るのが許せないとか、そんなの言えるわけないでしょ?」
だって桐原さんに嫌われたくないから。
性格悪い奴だとか思われたくないから。
こんなこと思う自分がいるなんて、認めたくないから。
グイ、と桐原さんのマフラーを引っ張って、その頬に触れるだけのキスをした。さっきお姉ちゃんが触れたところだ。
なんてくだらなくてガキっぽい嫉妬なんだろう、でも。
「…バカ桐原」
硬直している桐原さんから乱暴に手をはなして背を向ける。
バカバカバカ。
こんな喧嘩がしたいんじゃない、もっと冷静に話し合おうと思ってたのに。
大人になるのは難しい。