甘い恋じゃなかった。
―――…
「…出来た」
目の前の完成したそれ。
俺はなんとも言えない達成感と高揚感を感じていた。
…こんな気持ちでケーキを作ったのは初めてだったから、かもしれない。
アイツの顔が目に浮かぶ。
目を輝かせてかぶりつく、アイツの笑顔が。
栞里を失ってもうケーキは作れないと思った。
パティシエという仕事が、俺から未来を奪ったようにすら感じていた。
でも俺は今、これからもずっとケーキを作り続けていくんだと、根拠もなくそう言い切れる。
それは俺に再びケーキを作る場所を与えてくれた師匠のおかげ、そしてここ、ミルフィーユのおかげだ。
そして…
顔を上げると、師匠が今日張り切って設置したばかりのクリスマスツリーが、キラキラと輝いている。
…はやく食べさせてーな。