甘い恋じゃなかった。
「帰りましたー…」
買い物袋を下げて家に帰ると、部屋の真ん中に堂々と寝そべり寛いでいる男がいた。
「おう、帰ったか」
まるでこの家の主人のようだ。
本当の主人であるはずの私は、彼を踏みつけないようにしながらコソコソとキッチンへ向かう。
「俺、今日はラーメンの気分なんだけど」
そんな勝手なことをのたまいながらカウンターの上を覗き込んだ桐原さんが眉をひそめた。
そこに並べられているのは、私がさっき、スーパーで買ってきた品物の数々。
バニラビーンズに無塩バター…
「…今度は何作る気だよ」
低い声で桐原さんが聞いた。
「シュークリームです」
「……はぁ…」
彼がゲンナリとしたため息をつく。
「安心してください!桐原さんにはちゃんとこれ、買ってきたので!」
さすがに夕飯がシュークリームだけというのは怒られると思ったのだ。
私はビニール袋からカップラーメン(醤油味、大盛)を取り出した。
「これ、どうぞ!ちょうどラーメン食べたい気分だったのならよかったです」
「……」
「…あっ、私お湯沸かしますね?」
彼の視線が段々鋭くなってきたので、私は逃げるようにヤカンに水を入れ、火にかけた。