甘い恋じゃなかった。



そう。おそらく私が急にミルフィーユに寄りつかなくなったことを怪しんでいるのか、桐原さんから珍しく、何回か着信があった。


タイミングが合わなかった、というのは嘘で、わざと出なかった。というか、出れなかった。


だって。

あれから何度も何度も、思い出しちゃうんだもん。桐原さんとお姉ちゃんが抱き合っていたあの光景を。



…桐原さん、やっぱりまだお姉ちゃんのこと好きなのかな…。


そうだよね、そもそもは、お姉ちゃんと会うためにここにだって来たんだもんね。


元々、桐原さんはお姉ちゃんが好きで。


それが変わってなかっただけのことだ。


そう、私は…



ピンポーン


そのとき、インターフォンが鳴った。


時計を見ると午後10時半。


こんな遅い時間に一体…?


訝しく思いながらもインターフォンの電話を取る。


「はい…?」

『俺だけど』


「…どこの俺様でしょうか?」

『ふざけんな俺だ。桐原だ』



…どうしよう。本人襲来だ。しかも声が物凄く怒ってる。



黙ったまま立ち尽くしていると、どうやら痺れを切らしたらしい。


『お前に言いたいことがある。いいから早く降りてこいっ!!』


それだけ言って切れた。


どうしよう。怒っているどころじゃない。激怒している。


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