甘い恋じゃなかった。
コートを羽織り恐る恐る下に降りていくと、オートロック式の自動扉の前で桐原さんが腕組みをして待ち構えていた。その形相はとてつもなく険しい。
…どうしよう。激怒どころではない。大激怒している。
「…ど、どうされました?」
恐る恐る自動扉から出て声をかけると、桐原さんがグッと眉をひそめた。
「どうされただと…?もちろん心当たりあるよなぁ?」
「…はい。申し訳ございませんでした」
「店に来ないのはお前の勝手だが、電話もシカトとはどういうことだ?何か正当な理由があったんだろうな」
正当な理由…
桐原さんとお姉ちゃんの抱擁現場を見てしまったからです!というのは…
桐原さんの視線が鋭く私を射抜く。
…正当な理由になるのだろうか。
「…ちょっと…衝撃的なことがありまして…」
「…あのさ。こないだお前が言ってたことだけど」
桐原さんがガシガシと頭をかいた。
こないだ、というのは私が思わず桐原さんにバカと暴言を吐きほっぺに路チューをかましてしまった、あれのことだろう。
「…お前を不安にさせてしまったことは謝る。ごめん。でも、俺と栞里は…」
「あぁぁぁ大丈夫です!」
思わず遮った。
だめだこわい。桐原さんの口から、お姉ちゃんのことを聞くのが。