甘い恋じゃなかった。


「は?大丈夫って何…」

「あの、大丈夫です。分かってるんで!桐原さんのことも、自分の立場も」



そう、わかってる。


抱擁していたということはつまりはそういうことで。


桐原さんがはじめからずっと好きなのはお姉ちゃん。
私はあくまで二番煎じというか。


私が勝手に好きになっちゃっただけで、桐原さんもたまたま手が空いてたから相手してくれていただけ、というか?うん、そんな感じなんだろう。


「だからそれ以上何も言わないで下さい…」

「いやまだ何も言ってねぇよ」


怪訝そうに眉をひそめた桐原さんが、じ、と私を見た。


「…お前。何考えてる?」

「…え…」

「言えよ明里」

「…っ」



ずるい。こんなタイミングで名前を呼ぶなんて…!


痛いくらいの沈黙が私の周囲に充満していく。


「それは…」


明日はイブ。二日後にはクリスマスだ。


…もう少しで、クリスマスが、終わる。


「…クリスマスまで待ってください。それまでには…覚悟決めるんで」

「…覚悟?」


顔を上げた。桐原さんの訝し気にひそめられた瞳と、ぶつかる。


「せめて形だけでも、クリスマスまでは桐原さんの彼女でいたいんです」

「……は?お前、何…」

「じゃぁそういうことで!明日のイブ頑張ってください!当日は私も呼び込み頑張るんで!おやすみなさい!!」

「は…おいっ!!」


焦ったような桐原さんの声が追いかけてきたが無視して、自動扉の中に駆け込んだ。振り向かずにそのまま階段を駆け上がる。



…これでいいんだ。これで。


足を止めると、じわ、と目が熱くなった。


バカじゃないのか。自分で決めたのに、泣くなんて。



「…好きになんてなりたくなかった…」



こんなに辛いと知っていたなら。



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