甘い恋じゃなかった。
♡何度だって甘い恋を
仕事帰り。ドン、と前から歩いてきたカップルの女性と肩がぶつかった。
「あ、すみま…」
謝る間もなく、カップルは楽しそうに笑い合いながら歩き去っていく。
…幸せそう、だな。
ふと周りを見渡せば、辺りは幸せそうなカップルや家族連れで溢れていた。
…そりゃ、そうか。
今日はイブだもんなぁ。
どこかのお店から聞き慣れたクリスマスソングが聞こえてくる。
キラキラとお店の軒先に飾られたクリスマスツリーが、今日がピークとばかりに輝いている。
「…あ」
なんだか人がやたら多いなぁと思ったら、駅前広場にある大きなツリーの前に出てしまっていた。
…あぁ。今日はここ、避けて帰るつもりだったのに…。
あちこちからカシャ、とスマホで写真を撮る音がする。
幸せそうに頬を寄せ合い自撮りをするカップルたち。カップルたち。カップルたち。
あぁもう…
生き地獄だ〜っ!!!
私は足早にツリーの前の喧騒から抜け出し家路を急いだ。
クリスマス、大好きだったはずなのに。
今は嫌いだ。
少し前まで彼氏なんていなくても、気になる人すらいなくても、なんてことなかったのに。少し前の状態に戻るだけなのに。
どうして得てしまうと、失う前より悲しいんだろう。