甘い恋じゃなかった。
だけどとりあえず、任されたことは最後までやろう。そう決めたから。
「うーん…なんかすごく恥ずかしいんだけど…」
12月25日。クリスマス当日。
ミルフィーユのバックヤードで、私はサンタの衣装に着替え鏡の前に立っていた。
やはり断ればよかった…と後悔の念に襲われている最中、ガチャ、とドアが開きコックコート姿の桐原さんが入ってくる。
「…あ、悪い」
「い、いえ!もう着替え終わったんで」
「…あそ」
素っ気なくそう言って、私の方に近づいてくる桐原さん。私の隣にある机の上に置いてあったノートを手に取りパラパラと捲り始めた。
……すごく気まずい。
そそくさと出ようとしたら、「おい」と低い声がかけられる。
「…は、はい。なんでしょう」
「お前こないだ…」
何か言いかけて、桐原さんが口を噤んだ。手に持っていたノートを閉じて、机の上に軽く放り投げる。
「…いや、いいや」
「え…あ、」
と思ったら、私の手からサンタクロースの帽子を取り上げ、乱暴にかぶせてきた。
「ち、ちょっと前が見えな…」
「今日仕事が終わったら待っとけ」
「え…」
雑にかぶせられた帽子の隙間から桐原さんを見ると、真っすぐな瞳とぶつかった。
「いいから絶対待ってろよ。わかったな」
「え…あの」
そしてポン、と最後に私の頭に軽く手を乗せ、あっという間に出ていった。
…なんだろう。