甘い恋じゃなかった。
桐原さんの手が、頬から後頭部にまわる。
グイ、とカウンター越しに引き寄せられて。
ギシ、と机が鳴った。
唇が触れ合う直前、桐原さんの熱を持った瞳に、私の心臓が痛いくらい締め付けられる。
重なった唇は、すぐに深く、だんだんと熱を帯びていく。
不思議だ。
出会いは最悪で。
大嫌いだったけど、気付けばこんなにも求めるようになっていた。
私はこれからも、彼に、彼の作るケーキに、何度だって、恋するんだろう。
何度でも何度でも。飽きずに恋をするんだと思う。
「…このままここで押し倒してもいい?」
唇を少しだけ離した桐原さんが、至近距離でそんな物騒なことを言う。
「お、押し倒!?だダメです!!」
「…焦ってんなよ、嘘だっつーの」
まぁでも。じゃぁせめて。もう一回。
そのクリスマスの夜、私たちは何度も、唇を重ね合った。
これからもあなたと。
甘い甘い恋を、何度でも。
――終わり――