甘い恋じゃなかった。
♦おまけ
12月25日。土曜日。19時半。駅前広場。
大きなツリーの前。たくさんのカップルで賑わうそこで、一人の男がツリーを見上げ立っていた。男にツレの姿はない。どうやら一人きりのようだ。誰かを待っているのか、それとも…。
「やっぱり、いた」
女の声に一瞬の間の後、勢いよく振り向く男。…どうやら待ち人とは違ったらしい。その意外な姿に男―――牛奥は、眉をひそめた。
「早乙女ぇ!?何やってんだよ」
「こっちのセリフなんだけど?」
ん、と牛奥に両手に持った缶コーヒーのうち一つを渡す女―――莉央。
あったけぇ~と有難そうに缶コーヒーを受け取る牛奥に、莉央は呆れた瞳を向ける。
「明里、本当に来ると思ってんの。行かないって言ってたじゃん」
「…まぁそうだけど。一応だよ、一応!」
「何それ」
は、と吐き出されたため息が白く溶けて消える。
牛奥の隣に並び、さっきまでの彼と同じように莉央もツリーを見上げた。
「…つか、お前こそ何やってんだよ。営業部長はどうした」
「…ま、色々あんのよ、こっちにも」
「…あっそ…」
牛奥もツリーを見上げる。
25日のツリーは、終わりを感じてどこか物寂しい。
「…あのさ」
「ん?」
莉央がツリーを見上げたまま、何てことないように口を開いた。
「あんたみたいな優柔不断で諦めの悪い男って、私付き合ったことないんだよねぇ」
「…へぇへぇ、そうですかい」
「そんなんじゃ幸せ掴み損ねるよ」
「うっせー。お前こそそろそろ真剣に相手探しやがれ」
「じゃぁ私と付き合う?」
「へぇへぇ、それはようござ……はぁ!?」
ガバッと音がする勢いで振り向いた牛奥。莉央がは、と笑う。
「驚きすぎ」
「…いや待て。驚くだろ普通。つか文脈おかしいだろ。様子おかしいだろ」
「そう?」
「そうだよ!!」
「まぁまぁ。あんたみたいな男には、私みたいのがセットで付いてるといいと思うんだよね」
「おま、なんかの通販番組みたいに言うな!」
「じゃ、とりあえず寒いしどっか入ろ」
「いや、とりあえずってお前…おい待て!俺色々置いてけぼりだぞ!?」
12月25日。終わりかけのクリスマスから。何かが始まる予感もしたり、しなかったり。
――おまけ終わり――