甘い恋じゃなかった。
「な、な、何ですか…!?」
あまりの迫力に思わず後退ると、血走った目をした男がすかさず距離を詰めてくる。
ひぃ!怖い!私殺られる!?食われる!?襲われる!?!?
パニックに陥ったまま、距離を詰められるがままに後退すると、背に自動販売機が当たった。
バンッ!と男の長い腕が伸びてきて、顔のすぐ横に叩きつけられる。
これは世にも新しい“壁ドン”ならぬ“自販機ドン”だ!ってそんな呑気なことを考えている場合では断じてなく。
「なっ!何なんですかアナタ…!!」
渾身の勇気を掻き集めてそう言うと、男の頰が不気味に吊り上がった。
「アナタ?なんだよ、忘れちまったのか?俺のこと」
「は…!?」
「ったく、姉妹揃って薄情な奴等だな」
何を言ってるの…!?
理解できない私の目の前で、男が目元まで隠していた長い前髪を搔き上げる。
瞬間。
ゾワリと鳥肌が立った。
急に足元の地面がなくなったような感覚。
――――私は彼を知っている。
「桐原さん…!?」