甘い恋じゃなかった。
そんなこんなで、作業を開始してから二時間後。
出来上がったシュークリームを一口含む。
サク、とした生地を、ふんわり甘くなめらかなカスタードクリームが包んだ。
これ―――
「すっごくおいしい!!」
まさかこれを自分で作ったなんて到底思えない。今まで作ってきたものとの差は歴然だった。
「まさか私って天才なんじゃ―――!?」
「アホか。俺が監修してやったからギリ食えるモンになってるだけだ」
桐原さんがそう言いつつ、食べていたシュークリームを置いた。
「ダメだな。クレームの切れがイマイチだ」
「えーそうですか?すっごくおいしいですけど!」
そう言いつつ、早くも二つ目のシュークリームを食べ終えてしまった私は三つ目に手を伸ばす。
「う~ん!おいしすぎる~!」
思わず足をジタバタさせると、桐原さんが、フ、と呆れたように口角をあげた。
「…お前本当にケーキ好きなんだな」
「大っ好きです!まぁ、桐原さんには負けるかもしれないですけど」
「……は?」
桐原さんがワケが分からない、とでも言いたげな顔する。
もしかして彼は無自覚なのだろうか?
「だってこんなにおいしいケーキ、ケーキが大好きじゃなきゃきっと作れないですよ」
ふ、と虚をつかれたように桐原さんが僅かに目を見開いた。
…何かおかしいこと言っただろうか。
「? 桐原さんどうし…」
「俺が作ったんじゃねーし、アホか」
そう言って、食べかけのシュークリームを口に放り込むと席を立つ。
「え?もういいんですか?まだいっぱい残ってますよー?」
「ケーキバカに全部やるよ」
バカ、とは言われたけれど残りのシュークリームを独り占めできる嬉しさが買って、私は満面の笑みでお礼を言った。
「ありがとうございます!!」
「…バーカ」
彼がおやすみの代わりにそんな暴言を残して、自室へ引き上げていく。
寝室に使っていた洋室を片付け、今は桐原さんの部屋として提供しているのだ。ちなみにそんなわけで、私は今、リビングに布団を敷いて眠っている。
「いただきまーす」
私は5つ目のシュークリームに手を伸ばし、暫しその至福の時間を堪能した。