甘い恋じゃなかった。
元々そこまで広い家ではないので、掃除機がけもすぐに終わってしまった。
桐原さんはというといつもの定位置に戻り、再びテレビを見始めている。
あぁ〜…暇だ。
とりあえず掃除機をしまって、桐原さんから少し離れたところに腰をおろしてみた。
ケーキでも食べに行こうか。
でも日曜だと、ボヌールのイートイン、結構混んでるんだよなぁ…あぁでも、あそこなら。
ピン、ときた私は立ち上がった。
「桐原さん、たまにはお出かけしません?」
「やだ」
即答。
「何で!こんなにいいお天気なのに!」
「だるいし面倒くさい」
「すっごくおいしいケーキ屋さんがあるんですよ!!」
ピク、と桐原さんの肩が僅かに動いた。
あ、やっぱりケーキが絡むと少し反応する。
「…お前のうまいは当てになんねー」
「いや!本当に!本当においしいんですよ!もう、桐原さんのケーキと同じくらい!」
「……は?」
桐原さんがムクリ、と体を起こした。不機嫌そうに眉間の皺が寄っている。
「俺のケーキと同じくらい…だと…?」
「はい!同じくらい!」
「………」
桐原さんは無言で立ち上がると、ス、と私に背を向けた。
…あれ、なんか…怒ってらっしゃる…?
「あ、あの桐原さ「これでマズかったらぶっ殺す」
怖い!!!!
まぁ、何はともあれ行く気にはなってくれたようだ。
「…え…桐原さん、まさかその格好のまま行くんですか?」
「悪いかよ」
いや悪いというか普通にダサいというかダサさ極めてるというか…
そんな言葉が喉元まで出かかったが、桐原さんの鋭い視線に射抜かれ、私はそれ以上口を開くのをやめた。