甘い恋じゃなかった。
「当たり」
彼―――桐原さんが搔き上げていた前髪を下ろして、フ、と口角をあげた。
だけどその目は全く笑ってなくて、長い前髪の隙間から私を凝視している。
「ど、どうして…」
まさか、彼ともう一度会うことがあるなんて。思わなかった。彼とこうして、2人で対峙する日がくるなんて。
蘇るのは、あの日―――チャペルで一人立ち尽くす、桐原さんの姿。
「久しぶりだな、妹」
彼は私の姉、小鳥遊栞里の元婚約者。
姉は結婚式当日、白いタキシードに身を包んだ彼を残して
失踪した。