甘い恋じゃなかった。
ショートケーキをスプーンですくって、いざ食べようと口を大きく開いた。
「いっただっきまー……あ。」
その時ガラッと桐原さんの部屋のドアが開いて。
出てきた桐原さんと、口を馬鹿みたいに大きく広げた私と。視線が交差して、沈黙が3秒。
「ブッ……」
桐原さんが堪え切れない、といった感じで吹き出した。
「おっまえ、何そのアホ面…!!」
「ううううるさいですよ!!」
死ねる!恥ずかしくて死ねる!!
私は顔にカッと熱が集まってくるのを感じながら、スプーンを置いて抗議した。
「て、ていうか出てくるタイミング悪すぎなんですけど!?」
もしかして桐原さんにはケーキ探知機でも搭載されているのか!?
「言っとくけどケーキ分けてあげませんからね!?」
「つーかお前、さっきカレー食ったばっかりなのによく食えるな。太るぞ」
「太…!い、いいんです!
ケーキは別腹ですから!
好きなもの我慢する方がよっぽど体に悪いですから!」
半ば自分に言い聞かせるようにそう言うと、桐原さんが、ふーん、と意味ありげにじっと見つめてきた。
「…な、なんですか」
「別に。ホントにケーキ好きなんだなと思っただけだよ」
「好きですよ。大好きです!
桐原さんもでしょ?」
全国的にも有名なお店の苺のショートケーキ。
通常より濃厚なクリームとしっとりとしたスポンジが売りらしいが…。
もう見られたものは仕方ない!
私はアホ面を目撃されてしまったことは一旦忘れ、開き直ってケーキを食べることにした。
改めてケーキをスプーンですくって、口に運ぶ。その瞬間。
「一緒にすんな、バーカ」
突如伸びてきた腕にガシッと手首をつかまれ。そのまま、私の手首ごと桐原さんがケーキを自らの口に運んだ。
「あっあぁぁぁ…!!」
ケーキの貴重な一口が…!!
はじめの一口がぁ…!!
「隙あり」
意地悪く口角をあげた桐原さんは、ショックを受ける私を満足気に見下ろし「風呂」と浴室に消えていった。
…くっ…この恨み…
ケーキの神様が許してもこの私が
「絶対許さん!!」
こうなったら明日から一週間連続、夕飯をカレーにしてやる…!(そしてじゃがいもは微塵切りにしてやる…!)そんな復讐を決めた私だったが、なぜかその翌日から、桐原さんと夕飯を共にすることはパッタリとなくなってしまったのであった。