甘い恋じゃなかった。
♡キラキラ苺のロールケーキ
本日の業務も終盤に差し掛かってきた午後三時。
マグカップに入れたインスタントコーヒーの粉末に、コポコポとポットのお湯を注ぐ。
甘いケーキが大好きな私だけど、仕事中に飲むコーヒーはブラック派だ。
なんだか頭がシャキッとするような気がするから。
さぁ、今日も定時まであと数時間。気合いれていきますか!
コーヒーの香りを鼻いっぱいに吸い込んで、よし、と給湯室を出ていこうとしたとき
「お、おう!小鳥遊!」
なぜか駆け足で牛奥が入ってきた。
「牛奥。どうしたのそんなに慌てて」
「そりゃ小鳥遊と二人っきりになれるのレア…じゃない、こ、コーヒーが飲みたかったからに決まってんだろ?」
「あ、そ?じゃぁお先」
そして今度こそ給湯室を出ていこうとすると、
「ちょっと待った!」
呼び止められた。
「何?」
「あ、あのさー…今度の土曜とかって予定ある?」
今度の土曜?
「別にないけど」
答えると、一瞬パァッと顔を明るくした牛奥が、ふと我に返ったように咳払いをして
「あ、そう。ふーん、そっか」
「…なに?なんかあるの?」
「ま、まぁな。実は今日取引先からコレもらって…」
ゴソゴソと、上着のポケットから何やら細長い紙を取り出した牛奥。
見ると、そこには“ロザーンジュホテル東京 苺ブッフェ 特別優待券”の文字。
「二枚もらったから。俺あんま甘いもの好きじゃないけど、小鳥遊好きだろ?」
「えっ…もしかしてくれるの!?」
「おう」
「本当!?わーっありがとう!
ホテルの苺ブッフェいつか行きたいと思ってたんだよね…!」
マグカップを近くの戸棚へ置き、両手で恭しくそれを受け取る。
しかもあの予約困難と噂に聞くロザーンジュホテル東京だなんて…!
牛奥を拝みたい気分だ。