甘い恋じゃなかった。
「本当にありがとう牛奥!もう、あんたと同期でホントよかった!」
「だろ?」
「うん!莉央と楽しんでくるね!」
得意げな牛奥に向かって、ん、と右手を出すと、「ん?」と首をひねられた。
「何だこの手は」
「何って、チケットまだ一枚しかもらってないよ?」
「…そして何でここで早乙女の名前が…?」
「え、莉央と楽しんできてって意味じゃないの?」
「俺は!?」
悲痛そうな牛奥。え、俺?
「だって牛奥あんまり甘いもの好きじゃないって…」
「好きじゃねーよ!好きじゃねーけどお前とデート…じゃない、お、俺が行かなきゃこの券くれた取引先に悪いだろーが!!」
そう言われて、確かにそうかも、と納得する。
取引先に、苺ブッフェどうだった?とか感想聞かれたら困るしね。
営業のことはよく分からないけど、その辺付き合いが色々あるんだろう。
「そっか。ごめん、そうだよね」
素直に右手を引っ込めると、牛奥は心底安堵した表情で、「おう」と重々しく頷いた。
「じゃぁ土曜日な」
「あ、うん」
「じゃぁ…詳細はまたラインするわ」
あ、うん。よろしくね。そう言う私の言葉も最後まで聞かず牛奥は足早に給湯室を出ていった。
ていうか、コーヒーは?淹れにきたんじゃないの?
不審に思って牛奥の背中を視線で追っかけると、なぜかガッツポーズをしながら廊下を歩いていく彼の姿があった。
…うーん、牛奥との付き合いもかれこれ二年以上。だけど。
「謎だわ…」
とりあえず土曜日が楽しみだ。