甘い恋じゃなかった。
そして待ちに待った土曜日。
苺ブッフェへの期待からか、朝早く目が覚めてしまった。目覚まし時計を見ると午前6時30分。
玄関に行くとやはり、桐原さんの靴はない。今日も出かけてるんだ…。
あの、“ケーキはじめの一口強奪事件”から桐原さんは家にいることが極端に少なくなった。
朝は私が目覚めるより早く家を出て、夜は私が眠る直前くらいに帰ってくる。それも平日も土日も関係なくほぼ毎日。一体どこで何をしているのか。そしていつ眠っているのか。
「桐原さん、最近毎日どこに行ってるんですか?」
一度、夜遅く帰ってきた桐原さんにそう聞いたことがある。その時は尖った瞳でギロリと睨まれ、「…関係ねーだろ」と一蹴された。(私は心配して損したと思った。)
どうやらどこかで遊んでいる、というわけではないらしく、帰ってきた桐原さんはいつも、どっと疲れた顔をしている。でも、引きこもってた以前より少し、生き生きとしているような気もする。
そしてほんのり、甘い匂いがするような…?
「って…何でせっかくの土曜日に、朝から桐原さんのことばっかり考えてんだろ」
やめやめ!せっかく早起きしたことだし、有意義に過ごさないとね!
私は手早く身支度と朝食を済ませ、最近できていなかった部屋の掃除に取り掛かった。
いつもより丁寧に掃除機をかけ、天気が良いので布団も干すことにする。
ふと桐原さんのも干してあげようかと思い立ち、私は桐原さんが来てからはじめて、その部屋のドアを開けた。
7帖の洋室。以前は寝室として使っていた部屋だけど、今は桐原さんの私物で溢れている…なんてことはなく。
隅っこに畳んである布団と、洋服類が入っているプラスチックケースがいくつか。たったそれだけの、殺風景な部屋だ。
いつもヨレヨレ謎Tシャツにボサボサの寝ぐせヘアという最高に身なりが汚い桐原さんだが、どうやら意外にも細目に掃除はしているらしい。フローリングの床にはホコリ一つ落ちていなかった。
彼の布団を持ち、部屋を出ようとしたところで、足の指に何かが当たった。次いでバタン、と何かが倒れる音。
見ると、写真立てがひっくり返っている。
こんな殺風景な部屋に写真立てなんて意外だなと思いながら、布団を置いてそれを起こす。
別に写真を見ようと思っていたわけじゃなかった。だけど自然と目に飛び込んできたその一枚に、思わず動きを止め見入ってしまう。
そこに写っていたのは、仲良さそうに頬を寄せ合う桐原さんとお姉ちゃんの、姿―――