甘い恋じゃなかった。
「とりあえず話あるから家入れろや」と血走った目の桐原さんに凄まれ、私はビビりながらも彼を部屋に招き入れることになってしまった。
「そ、粗茶ですが…」
リビングの真ん中、ローテーブルの前に胡坐をかいている桐原さんの前に、恐る恐るショコラフランボワーズと一緒に飲む予定だった紅茶を置く。
あいにく緑茶を切らしており、客人に出せる飲み物がそれしかなかったのだ。
「………」
彼は無言でそれを一瞥しただけで、腕組みをしたままジ、と険しい顔でいる。
私は彼から1.5メートル程離れた所にチョコンと正座した。
ピリピリ張りつめたこの空間を、なんとも場違いな紅茶の甘い香りが包む。
…帰りたい。
私は自分の家なのになぜかそんなことを思った。