甘い恋じゃなかった。
そして“キララ王子”ファンの女子たちが帰った閉店後の店内。
カウンター席に座っている私と牛奥、それに向かい合う形で立っている店長、少し離れたところにいる桐原さん。
「明里ちゃんとキララくんがここに来た一週間くらい後、弟子にしてくれった頼みにきたんだよ、キララくん。
弟子なんてはじめは断ったんだけどね?どうしてもって言うから、アルバイトって形で働いてもらうことにしたんだ」
「そうだったんですか…」
まさか桐原さんがミルフィーユで働いているとは思わなかった。最近、急に家にいなくなった理由はそれだったのか。
「それにしてもキララ王子ってすごいあだ名ですね。桐原さんいつも仏頂面で、全然キラキラって感じじゃ…ヒィ!」
怖い!
思わず本音を口にしてしまった私に、桐原さんの鋭い睨みが炸裂する。
冷や汗を垂らす私に、店長がキョトンとした表情で言った。
「え?だって本名じゃん、煌良(キララ)って」
「……えぇ!?」
「明里ちゃん知らなかったの?」
そ、そう言われてみるとお姉ちゃんがそんなこと言っていたような言っていなかったような…!
「ていうかあまりに似合わな……あ、嘘です嘘です!」
桐原さんの睨みが更に鋭さを増してきたので、私は命の危機を感じ慌てて否定した。