甘い恋じゃなかった。
「ところで二人はデートでもしてたの?
明里ちゃん珍しくワンピースなんて着ちゃって可愛いじゃん!」
「えっ?可愛い?ありがとうございます!」
お世辞でも嬉しい!
店長の言葉に思わずニヤけた私に、「ケッ」とそっぽを向く桐原さん。
むー、感じ悪い。自分はいつも出所不明の“謎T”愛用者のくせに!!
「実はロザーンジュホテル東京の苺ブッフェに行ってて…」
「おお、あの有名な!どうだった?」
「もう、最っ高でした~!
特に、いちごのロールケーキが絶品で!
鮮やかなピンクのいちご生クリームに、表面にはキラキラしたアラザン、コンポートされたいちごも甘くって…」
あぁ、思い出すだけでヨダレが…
思わず口元を拭った私に、店長が「いいなぁ~!僕も食べたくなってきちゃった…そうだ、作ってくれない?キララくん」ポンと手を打って、言った。
「…は?」
我関せずとばかりに壁にもたれていた桐原さんが、怪訝な顔をして身を起こす。
「あっ!いいですねそれ!私も食べたい!!」
ナイスな店長の提案に、私もすぐに賛同した。
「店長知ってます?桐原さんの作るケーキ、すっごいおいしいんですよ!」
はじめて食べた桐原さんのケーキ。いちごのショートケーキを思い出す。
うまく言えないけど、なんていうか、こう、すごく幸せになるケーキだった…
「じゃぁ決まりだね。よろしくキララくん☆」
「よろしくお願いしますねキララ王……桐原さん☆」
「テメー…」
桐原さんがユラリと黒いオーラを放ちながら私を睨みつける。
「嫌だね!誰がお前のためにわざわざロールケーキなんて」
「キララくん」
店長がクイッと青ぶちメガネを押し上げていった。
「師匠命令、だよ?」
「……………わかりました」
おお!すごい店長!桐原さん使いだ!!