甘い恋じゃなかった。
犬みてぇとバカにされながらも大人しく切り分けられるのを待つこと数分。
ついに、私の目の前にロールケーキがやってきた…!
「いい匂い…」
スゥ、と鼻いっぱいにそれを吸い込む。
ハチミツと卵とクリームと。甘くて、どこか懐かしい匂い。ワクワクする匂いだ。
「うん。なかなかいい出来だ」
店長が桐原さんに向かって微笑むと、彼は深々と頭を下げた。(ここでの桐原さんは恐ろしく謙虚だ)
「あれ、牛奥は食べないの?」
ふと隣を見ると、牛奥の前には相変わらずコーヒーしかない。
「俺は遠慮しとくよ。甘いもの苦手だし、ただでさえ今腹一杯だ…」
「何言ってんの!?勿体ないじゃん!!」
勢いこんでそう言うと、え、と牛奥が僅かに身を引いた。
「桐原さんのケーキ本っ当においしいんだから!食べなきゃ絶対に人生損だから!!」
「わ、わかったよ。そこまで言うなら食うって」
私の勢いに圧倒された牛奥がいそいそと桐原さんからロールケーキを受け取っている。うむ。それで良い。
それでは全ての準備が整ったところで、
「いただきま〜す!!」