甘い恋じゃなかった。




サク、とロールケーキにスプーンをいれる。しっとり、ふわふわな生地。


口にいれるとフワ、とはちみつの香りがした。それに甘さ控えめの生クリームと、甘いいちごが絡み合う。



…なんだろう。


いちごブッフェで食べたロールケーキもおいしかったけど、それとは全然違う。


ふわっと消えるスポンジと、しっとりなめらかな生クリームと。その中でパッと華やぐいちごの存在感。スポンジとクリームといちごの絶妙なバランス。



「おいしい…!」



自然と口から零れ落ちた言葉に、桐原さんが偉そうに私を見下ろし言った。




「当たり前だろ。俺が作ったんだから」




こんなに傲慢な物言いなのに、なぜか「そうですよねぇ」と納得してしまうのは、彼のケーキが本物だから。




ファッションセンスもないしいつも上から目線だし人のパンツを馬鹿にするような最低な男なのに。



なんでこの人の作るケーキはこんなにおいしいんだろ。




「…おいしい」



隣では一口食べた牛奥も、驚いたように目を瞠っていた。




「…俺、はじめてケーキでこんなにうまいって思った」


「でしょ!?」


「なんでお前が偉そうなんだよ」



勝ち誇った私に桐原さんが突っ込む。


いつ何時も偉そうな桐原さんだけには言われたくない。




「…さすがだよ、キララくん」



店長が感慨深げな表情で、クイッと青メガネを押し上げる。




「さすが、オンソレイエホテルの元スーシェフだ」




………は?



「オンソレイエホテルの…?」



「元スーシェフ。あれ、もしかして明里ちゃんこれも知らなかったの?」




……知らんがな!!






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